田澤由利の徒然テレワーク

【徒然】育児休業給付金の規制緩和。在宅勤務という新しい「選択肢」(後編)

以下の記事の後編です。

【徒然】育児休業給付金の規制緩和。在宅勤務という新しい「選択肢」(前編)

テレワーク(在宅勤務)に関して、以下のような記事がメディアに掲載されたことを受け、私自身の思いを綴っていました。

2013年5月6日 産経新聞
 在宅勤務規制、緩和へ 育休取得を促進 自民、参院選公約に
  #ネット上での公開期間が過ぎたため、出典のみ明記します。

2013年5月8日 共同通信
 育休給付、支給要件緩和へ 在宅勤務支援で厚労省

ワイズスタッフに勤務する女性が、育児休業中の在宅勤務を行ったことをきっかけに、「育児休業中のテレワーク」が、育児休業の取得と、取得後の現場復帰につながると考えた私は、テレワークを所管している4省(総務省・厚生労働省・国土交通省・経済産業省)をまわり、その必要性をテレワークや育児休業担当の方に訴え続けました。官庁の人事は2年ぐらいで変わります。その度に説明に伺い、さまざまな意見をいただきました。

「休業中に働くのはおかしい」
「そんなに働きたい女性がいるのか」
「悪用されたら雇用保険の財源が無くなる」

これらのような厳しい意見もある中、何人かの方が真剣に検討し、国会議員へも話を持っていってくださいました。しかし、経済不況や政権交代等の中、一歩進んで一歩下がる。また、一歩進んで一歩下がる。その繰り返しで7年という月日が過ぎました。

そして2013年。「第2次安倍内閣」のもと、今回の記事に与党の公約として、まさに訴え続けてきた内容が記載されていたのです!

■「休む」か「働く」ではない、新しい選択肢

私は、3人の娘を出産したとき、フリーのライターをしていました。自営業ですので、自分の判断で、仕事の時間や量を調整することができます。実際、出産前も出産後も、在宅で仕事をしていました。おかげで、出産後もキャリアを継続することができました。

しかし、雇用されている人は違います。「育児・介護休業法」という法律で守られてはいるものの、「休む」か「働く」か、どちらかを選択しなくてはいけない場面が多くあります。

くだんの「1か月に10日以下」という給付制限も、「労働者に休んでもらう」ため「1時間でも1日とみなす」という判例も、「短くても通勤の負担がある」という労働者への配慮かと思われます。でも、時代は変わり、働く女性の考え方も、働くための道具も、働く形態も変わっています。ちなみに「1か月に10日以下」と雇用保険法施行規則で定められたのは、昭和50年。テレワークはもちろん、インターネットさえも想像できない時代でした。

もちろん、育児休業を取得する女性すべてが「在宅勤務」をしたいというわけではありません。しかし、「休む」か「働く」か以外に、「休みつつも、働き続ける」という選択肢があれば、どちらも選べずにいた女性たちが、行動できるようになります。具体的に言うと、仕事で能力を発揮し、会社でのキャリアを積みたいために、出産を遅らせたり、諦めていたりした女性たちです。

「子どもは欲しいけど、キャリアを積んでから」「今、子どもを産むと、会社に居にくくなる」といった理由で、出産を遅らせた人を何人も知っています。また、育児休暇後、職場復帰したものの、通勤と保育園の送迎と急な病気等の対応に疲れ果て、結局退職してしまった人も少なくありません。

■「育児休業中の在宅勤務」の最大のメリットは…

育児休業中に在宅で勤務できるメリットは、以下の通りです。

〇社員のメリット
・仕事のキャリアや知識を継続しつつ、出産することができる
・育児休業中の収入を増やすことができる
・育児休業後もスムーズに、職場に復帰できる
・育児休業後も、子育ての状況に応じて在宅勤務を継続できる

これらは、裏返してみると、「休むのではなく、できれば、仕事をしてもらいたい」会社にとっても、メリットになります。

〇会社のメリット
・女性社員が出産しても、仕事のキャリアや知識を継続できる
・育児休業中も、仕事を継続してもらえる
・育児休業後もスムーズに、職場に復帰してもらえる
・子育中でも、休むのではなく、在宅勤務で仕事をしてもらえる

そして、会社がその必要性を理解し実行してくれると、さらに大きなメリットを生み出します。それは、「安心して女性を雇用できる」というメリットです。法律で採用時の男女差別は禁止されているものの、女性を採用する企業の「不安」は否定できません。

本当の意味で「女性が能力を発揮して活躍できる社会」に必要な施策は、「女性を守る」だけでなく「女性を企業にとっての戦力とする」施策です。私は、そのひとつの方法が、柔軟な働き方、テレワークだと信じて、20年間突き進んできました。

■「育児休業中の在宅勤務」の課題と対策

とはいえ、「育児休業中の在宅勤務」は、簡単に実現できるものではありません。課題もたくさんあります。また、多くの方が以下を心配されることでしょう。

・在宅でできる仕事がない業種や職種の場合はどうすればいいのか

・在宅でひとり仕事をすることで、さらに孤独になるのではないか

・希望しない社員にも、会社が強制的に在宅で仕事をさせるのではないか

・在宅で仕事をすると「過剰労働」になるのではないか

・そもそも赤ちゃんがいる中で、仕事などできないのではないか

近い将来、政策として規制緩和・支援策等を検討・実施することがあれば、ぜひともご配慮いただきたい点を記載させていただきます。

・在宅勤務を制度として導入済みの企業に限定する
育児休業中のためだけではなく、今後増えるであろう介護退職の防止のためにも、会社としてしっかり「在宅勤務制度」を導入した企業が実施できるようにする。
また、中小企業を対象とした導入支援策(コンサルティング・システム補助金)などの施策を実施する。

・育児休業中に在宅勤務を実施する場合の条件を文書に残す
本人の希望を前提に、実施時間、期間を設定する等、在宅勤務実施の予定内容を書類として残す。本人が希望しないのに、企業が一方的に「育児休業中の在宅勤務」を強いてはいけない。

・企業は、在宅勤務中の時間管理を確実に実施する
在宅勤務だからといって「みなし労働」にすると、過剰労働の危険性が高まる。
従来どおりの時間管理を実施できるよう、システム面、監視面を強化する。
赤ちゃんが寝ている時間、父親が在宅する時間等の業務も考慮し、時間外労働、深夜労働割増も対応する。(ただし、ここには別の規制緩和が必要です。これはまたの機会に。)

・従来の仕事を継続できるようにする
在宅勤務のために「データ入力」「テープ起こし」等の業務を用意する企業があるが、できる限り従来の仕事の一部(あるいは関連)業務を実施できるよう配慮する。たとえば、接客業だったとしても、「接客にかかわる企画・資料作成業務」等、復帰したときの業務を幅を広げることも目的とする。

・上司だけでなく同僚とのコミュニケーション手段を導入する
育児休業中は、物理的にも精神的にも孤独になりやすい。在宅勤務中は、できる限り、オフィスにいるのと同様の環境、コミュニケーションをとれる体制を整える。メール、チャット、電話、バーチャルオフィス等、在宅勤務者が、従来の職場、また、復帰後の職場の状況を把握できる環境を用意する。

・育児休暇前の収入100%を目指せるようにする
現状の規定では、給付金も合わせて、育児休暇前の収入80%が上限となっている。これを改訂して100%とすることで、育児休業中でも、働くモチベーションを、さらに維持することができる。

以上が、先日の記事を受けた私の思いと意見です。

あれから9か月が経ち、2014年2月10日、ついに育児休業給付金の規制緩和が実現しました。

2014年2月10日 47News
 育休給付の支給要件緩和へ 在宅勤務拡大、10月めど

2014年2月11日 TXNニュース
 育休給付 支給要件緩和へ

私にとっては、悲願のニュースです。

育児休業中、在宅で少しずつでも働きたい女性のための規制緩和。「休む」だけでなく「柔軟に働く」選択肢を広げる、大きな一歩です。この一歩を、さらに前へ進めるべく、そして、女性だけでなく、より多くの「働きたい」という願いに応えられるよう、これからも田澤由利は「在宅勤務」を広める道を突き進んでいきたいと思います。